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カエサルと労働組合

2005年2月18日
スタッフ記

■ローマ時代とは

現在の時代に生きている私たちから見ると、ローマ時代はあまりに遠い過去である。かのユリウス・カエサルが生まれた時、日本は弥生時代であったことを考えるとそのギャップに驚かされる。弥生時代と言えば「縄文時代」と「古墳時代」に挟まれた時代である。「大化の改新」はカエサルが生まれた750年ほど後なのだから、中臣鎌足にとってもカエサルは恐ろしく遠い歴史上の人物だったのだろう。

そのカエサルが生きていた時代を、労働組合の立場から考察してみたい。何故このようなことを考えたのかと言うと、近年大ベストセラーになっている塩野七生さんの「ローマ人の物語」に出会ったせいだ。生き生きと描かれる人物・背景描写に触れるにつけ、「現在に生きている私たちと彼らの違いはどこにあり、どの部分が似ているのだろう」と疑問を持つに至った。なお、ローマ時代の労働組合について、実際に多くの書籍にあたることは難しいので、前出の「ローマ人の物語」から類推していきたい。

まず、カエサル以前に目を向けてみる。カエサルの生まれる30年ほど前、グラックス兄弟がグラックスの改革と呼ばれる農地改革を試みた。「農地改革」など、その時代にあったのかと思われるかもしれないが、遠い過去のこととはいえ、そこには純然と生きている人たちがいて、彼らには彼らの悩みがあった。これは私たちが今抱えている悩みとさほど変わりはないようだ。その代表例が「失業者問題」。詳しい歴史解説は飛ばすが、第2次ポエニ戦争を勝利で終えたローマには、領土拡大と共に大量の「奴隷」が流れ込んできた。つまり、安くて兵役にも取られない労働者を手に入れたわけだ。なお且つ、兵役を終えて帰ってきた者も多く、行き場を失った失業者が街にあふれることとなる。無産者に落ちてしまった彼らに農地を貸し与え経済発展を促すというのがグラックス兄弟の目的だった。失業者対策と経済対策を兼ね備えたこの改革は、しかし猛反発にあい成功しなかった。何故か。それは今日と寸分違いのない理由によってである。既得権益の流出を恐れた反動勢力によって押さえ込まれたからだ。

こうして歴史を振り返ってみると、本当に2100年ほども昔の話をしているとは思えないほどよく理解できる。そこに存在した自分を想像できるほどだ。そしていつの時代にも傑出した人物は現れるもので、ユリウス・カエサルはそんな社会制度を一新する制度改革を実施していく。

■カエサルの改革
私たちが歴史に触れる時、多くは戦争に彩られた領土争いの歴史を中心としたものになりがちである。事実、ユリウス・カエサルについて学校では、「ローマ帝国」の礎を築いた戦争の天才という取り上げ方であったと思う。現在の日本において「帝国」を築いた人はけして良い人とは思われない。ダースベーダーも悪者扱いだし、エンペラー(皇帝)という言葉も暴走族などが好んで使う言葉だったりする。軍事的なイメージである。歴史的には「大日本帝国」が「帝国」イメージの源になっているのだろう。反対に好んで使われるのが「民主主義」だ。これはとても平和主義的イメージである。みんなで意見を持ち寄って多数決で決める。確かに正しい。だた、民主主義を旗印に戦争を始めるとこができる国もある。現在の民主主義の守り神を標榜しているある国だ。民主主義が常に正しいとするのもどうなのか。物事を側面的にみて価値を決めるのではなく、その内容に目を向けてみたいと思う。すると、ユリウス・カエサルの新しい側面が見えてくる。

ポンペイウスとの内乱に終止符を打ったカエサルは国内制度の改革に取り組む。その中から社会制度改革と思われるものにスポットライトを当ててみる。

1.金融改革
通貨を統一をはかった。金貨・銀貨・銅貨の換算値を固定化し、ローマ帝国内部で統一したのだ。そして、各国で使用されている通貨をそのまま残した。これはユーロ政策に似ている。それぞれの国がそれぞれの通貨を使用し、その大元の価値をローマの通貨で固定したのだ。経済の安定を考えた政策と言える。

2.司法改革
政治犯に対する死刑制度を廃止した。最高形が追放刑と決まる。古来、ローマは法治国家であり法律を制定しないことには政治を行なえない形になっていた。政治犯に対する死刑制度の廃止は非常に民主主義的なように思われる。また、ローマ法の集大成を模索していた。ローマは成文法の文化ではなく、数多くの法律が制定されては使われずに有名無実化していた。しかし、ローマ法大全はカエサルの手によっては実現しなかった、実際は暗殺されてしまったためだ。

3.社会改革
失業対策を行なう。具体的には失業者への借地権を認める「農地法」を復活させる。グラックス兄弟が失敗した「農地改革」である。植民政策と同時並行して実施されたため、ガリアや北アフリカなどローマ以外の土地への進出を推奨。植民政策ではあるが、同時に戦後の失業者対策にもなった。

これらのすべては社会制度の安定を主眼に置いたものである。政治とは人々に安定と秩序を提供して初めて意味があるのではないか。カエサルの目指していた社会は現代に生きる私たちにも理解ができる。もちろん、彼の基本は「帝国主義」であったわけで、ここでは触れていない「軍事改革」も行なっている。彼の目指していたものについて考察するに、カエサルのすべてが正しいわけではなく、そしてすべてが間違っているわけでもないと思うのだ。

■ローマ時代の組合(コロジウム)
カエサル以前からローマには組合があった。コロジウムと呼ばれた職能組合である。ローマ時代の職能組合ではそれぞれの仕事にかかわる神への崇敬が行なわれていた。この辺に歴史を感じる。各職種に神様がいるといった宗教色をもった組織だったと思われる。

カエサルが台頭する少し前に、このコロジウムは政治闘争に利用されることになる。職能組合としてではなく、社会闘争の担い手として機能し始めたのである。政治組織化されたと言い換えることもできる。安保闘争後の組合を彷彿させはしないか。宗教団体と政治組織が繋がることは現在の日本でも「政教分離」政策がとられているように危険な状態と考えられる。カエサルはこの政治組織化した組合を解体する。そして新たに組合員の相互扶助を目的とした職能組合の再建は許した。正しいことかどうかは分からない。ただ、ここで知って欲しかったのは、カエサルにとってもローマにとっても労働組合の処遇というのが議題に上がったことは確かなのだ。

■時代と労働組合
西洋の労働組合は、コロジウムからギルドなどへ姿を変えて今日に繋がっている。労働者の権利を守るために団結するという歴史は古来から続いているわけだ。そしてこうも思える。必要だからその時代に存在したのではないか。法律があったから存在したわけではない。会社に最初からあるから存在したわけでもない。必要に駆られて生まれた労働組合という組織があったわけだ。そして時代によってその求めるものも変わっていく。

価値観や労働形態が多様化した現在社会の中で、労働組合が果たす役割は必ずある。歴史に目を向けるとそのことに気づかされる。2100年前の、彼らにとって守らなければならなかったものは、現在の私たちが守らなければならないものかもしれない。

【書籍紹介】


塩野七生 :「ローマ人の物語」

1992年より、ローマ帝国興亡の一千年を描く。2005年2月現在、単行本は「最後の努力―ローマ人の物語XIII―」まで書かれている。文庫では、1〜16巻(第VI巻「パクス・ロマーナ」 まで)が刊行されている。
カエサル、スーラといった人物に焦点を当てた記述とその背景を含めたローマの社会情勢、改革などといった動きがどちらも生き生きと書かれている。世界史好き必読の書。

 


バックナンバー
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